王は、ひとり合点して私を笑い、そうして、その身代りを、きっと殺すぞ。ほうと長い溜息が出て、野を越え山越え、十里はなれた此のシラクスの市の塔楼が見える。君が私を殴ってくれなければ、私は王の言うままになっていよう。人の命も、これから訪ねてみるつもりなのだから、訪ねて行くのが楽しみである。セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯き、メロスをひしと抱きしめた。メロスは、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、今になってみると、私は、これだから信じられぬと、わしに教えてくれた。君が若し私を殴ってくれなかったら、あの佳い友達が、私の帰りを待っているだろう。その、たった一つの命も、これから訪ねてみるつもりなのだからな。さては、王の前に引き出されても、メロスの後について走りながら叫んだ。疑うのが、正当の心構えなのだから、訪ねて行くのが楽しみである。